肺炎球菌ワクチンについてもっと詳しく!

2010年6月24日木曜日 14:48

 肺炎球菌ワクチンについて(詳細版)             
 
(2010年6月) 小豆沢病院 小児科医師 篠田 格 

 肺炎球菌ワクチンには、以前からある高齢者や免疫力の低下している方などが対象の(23価多糖体)肺炎球菌ワクチンと(商品名:ニューモバックス)、2010年2月より接種可能になった乳幼児用の肺炎球菌(7価)結合型ワクチン(商品名:プレベナー)の2種があります。
 
 大人用の(23価多糖体)肺炎球菌ワクチンは2歳未満の子供に接種しても十分な抗体ができないので、2歳未満は接種対象になっていません。毒性のない変異ジフテリア毒素とういうたんぱく質に抗原を結合させることによって、2歳未満でも抗体が作られるようにしたのが乳幼児用の肺炎球菌結合型ワクチンです。そのため、結合型と言われます。

肺炎球菌とは
 鼻やのどの粘膜にときどきいることのある細菌で、細菌がいるからと言って必ず症状がでるわけではなく、免疫力が低下した時に、または身体を守るべきバリアが損傷を受けたときに、肺炎球菌による病気になります。高齢者には肺炎を起こしやすく、乳幼児では重篤な感染症である細菌性髄膜炎を起こすことがあります。一般的には、肺炎、細菌性髄膜炎、急性中耳炎、敗血症などを引き起こすことがある細菌です。肺炎球菌は90種類以上の血清型(サブタイプ)があり、肺炎球菌に1回罹患しても、血清型が違えばまた罹患してしまいます。 以前はペニシリンという抗生物質によく効いていたのですが、最近ではペニシリンなどの抗生物質に耐性の肺炎球菌が増えてきて、治療が難しくなってきて問題になっている細菌です。

細菌性髄膜炎について
 髄膜とは、脳と脊髄をおおっている膜で、この髄膜に細菌が炎症を起こしてくる病気です。髄膜炎には、大きく分けるとウイルス性と細菌性の髄膜炎とがあり、ウイルス性の髄膜炎は、おたふくウイルスや夏風邪のウイルスによるものが多く、数日から一週間安静にしていれば治ることの多い病気です。しかし、細菌性髄膜炎は、ウイルス性より発症する確立が少ないのですが重症化しやすい病気で、現代の医学でもまだまだ生命に影響が出たり、一命を取り留めても後遺症を残したりすることがあります。
 細菌性髄膜炎の一般的な症状は、発熱、頭痛、嘔吐、痙攣、意識障害などです。この後遺症には、精神発達の遅れ、四肢の麻痺、難聴、けいれんなどがあります。罹患しやすい年齢は5歳以下で特に2歳以下です。
 早期の治療開始が予後を左右すると言われますが、なかなか早期の診断が難しく、重症化するまでは風邪と区別がつきにくい病気です。また、早く診断できても急速に進行して治療に反応しないこともあります(早く診断できたということはそれだけ早期から重症だったから診断できたともいえます)。
 細菌性髄膜炎の原因になる細菌は、一番多いのがHib(ヘモフィルスインフルエンザ菌)で日本での年間推定患者数は500〜600人、次に多いのが肺炎球菌で年間推定患者数は200〜300人です。
 この2つの細菌で、小児の細菌性髄膜炎の8割を占めるといわれています。肺炎球菌による細菌性髄膜炎のほうがHibより発症する頻度は少ないのですが、死亡率や後遺症になる率が高いです。(統計にもよりますが、Hibが原因の場合3〜5%、肺炎球菌が原因の場合約7%)
 細菌性髄膜炎は怖い病いなので、そもそも罹患しないように予防すべきなのでワクチンが大切になります。

肺炎球菌結合型ワクチンについて
 細菌性髄膜炎の予防のためHibワクチンをアメリカなどの国々で導入され、Hibワクチンの接種が行き渡ったら、Hibが減った代わりに肺炎球菌による細菌性髄膜炎が目立ちだし、次に小児用の肺炎球菌結合型ワクチンが開発され、世界で2000年より使用され始められました。2010年2月に日本でこのワクチン接種ができるようになりましたが、この時すでに世界では100か国以上の国で接種可能で、45か国ではもう定期接種に組み込まれていました。日本はワクチンでは後進国です。
 肺炎球菌は90種類以上の血清型がありますが、肺炎球菌結合型ワクチンには7種類の血清型しか含まれていません。ワクチンに全ての血清型を含ませることはできないため対象を絞っています。肺炎球菌による細菌性髄膜炎を引き起こす血清型のうち頻度の多い7種類のみで細菌性髄膜炎の70〜80%を占めます。そのため血清型が90種類以上ありますが、肺炎球菌結合型ワクチンに入っている7種類で肺炎球菌による細菌性髄膜炎の7~8割をカバーできます。
 7価の肺炎球菌結合型ワクチンを導入しているアメリカでは、ワクチンに入っている7種類以外の血清型が少ないですが目立ちだしたので、アメリカでは13価の肺炎球菌ワクチンが導入されはじめています。日本でもいずれ13価の肺炎球菌ワクチンが入るようですが、何年先になるか分かりません。13価のワクチンが手に入るまでに肺炎球菌による細菌性髄膜炎に罹患してしまえば意味がないので、7価肺炎球菌結合型ワクチンでも相当に効果があるので早く接種すべきでしょう。7価の肺炎球菌結合型ワクチンが広く接種が行き渡った頃には考慮する必要がありますが。
 肺炎球菌結合型ワクチンは、細菌性髄膜炎の予防目的ですが、急性中耳炎や肺炎に対してもある程度効果があると言われています。

肺炎球菌結合型ワクチンの接種時期と接種回数
 標準は2か月から7か月未満で接種を開始し、初回免疫は27日以上あけて3回接種し1歳に追加免疫を1回接種します。接種開始が遅れてしまった場合、生後7か月から1歳未満は初回免疫2回と追加免疫1回、1歳台は60日以上あけて2回接種、2歳から9歳以下は1回接種になっています。年齢が大きいほど接種回数が少なくなりますので、接種回数が減る年齢まで待ちたいと思う人もおりますが、その間に罹患してしまう可能性があり、できるだけ早くから開始することを勧めます。

肺炎球菌結合型ワクチンの効果
 アメリカのデータでは、肺炎球菌7価結合型ワクチンを定期接種したところ、2歳未満ではすべての血清型の肺炎球菌による細菌性髄膜炎を約6割減らし、肺炎球菌7価結合型ワクチンに入っている7種類の血清のみの比較では9割以上減らしています。

肺炎球菌結合型ワクチンの副反応
 局所の反応として、注射部位の発赤71〜81%、腫脹65〜74%、疼痛8〜17%で、37.5度以上の発熱は19〜25%、易刺激性11〜20%、傾眠状態11〜22%などの報告があります。海外の報告ではショック、アナフィラキシー様反応、けいれんなどの報告がありますが、頻度は少なく他のワクチンと同程度のようです。

費用などの問題
 2010年春の時点では、任意のワクチンなので自費です。医療機関での購入価が高く、Hibワクチンよりも料金が高いです。基本は1回接種でないのでその分跳ね上がります。一部の自治体ではHibワクチンに助成金を出しているように、肺炎球菌ワクチンにも少なくとも助成金を出して欲しいです。また、一刻も早くHibワクチンを含めて国として定期予防接種に取り入れ無料にすべきワクチンと考えます。
 毎年細菌性髄膜炎で数十名のこどもがなくなっており、それ以上の子どもが後遺症で困っており、ワクチンがありながらどの子も接種できるよう定期予防接種にしていないのは、妨げる手立てがありながらしていないので「ネグレクトにあたる」と言っている先生がおりました。
 WHOでもHibワクチンや肺炎球菌結合型ワクチンなどを定期予防接種にするよう勧告を出していますが日本は今のところできていません。定期予防接種にして何か問題があれば責任を問われるが、定期予防接種にしないで子どもたちが病気になっても厚生労働省は責任問われないと思っているのでしょうか。

 【参考文献】
プレベナー水性懸濁皮下注射の添付文書
細菌性髄膜炎の診療ガイドライン 日本神経感染症学会
細菌性髄膜炎から子どもを守る会のホームページ
横浜市衛生研究所のホームページ
子どもと肺炎球菌 トピックス 2008年11月発行
プレベナー製品概要 wyeth